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SNSで話題の「痩せる注射」に潜む落とし穴

2年ほど前、病院に勤務していた時に、オゼンピックやマンジャロといった2型糖尿病に用いる注射薬が品薄になる事態が起こりました。
原因はダイエットを目的とした美容クリニックでの処方の多発と言われていました。
そんな中、肥満症という適応症を引っさげた「ウゴービ®」が昨年発売され、肥満外来なる名称で自由診療で処方するクリニックが出始めました。
SNSやブログなどでもウゴービで痩せましたとかいう情報が出ており、簡単に痩せられると誤認させるような情報発信をしている人も見かけます。
でも、それを見て“打ってみたい”と思ったあなたにこそ、知ってほしいことがあります。
昨今、本当に薬を必要とする糖尿病患者や重度の肥満症患者へ薬が届かない事態が起きています。 美容目的の使用拡大が、医療崩壊の危機*を招いているのです。
ウゴービ(Wegovy®)はダイエット薬ではありません。これは肥満症という「病気」を治療するための薬であり、美容目的の減量に使うことは想定されていません。
私は病院薬剤師として長年、患者さんと向き合ってきました。
医療の本質は「健康を取り戻すこと」であって、「体重を減らすこと」ではないはずです。昨今の“ウゴービを始めとしたGLP-1アナログによる美容目的の痩身”には、医療の理念から外れた危うさを感じざるを得ません。
ウゴービとはどんな薬か

ウゴービの有効成分はセマグルチド。GLP-1というホルモンに似た作用を持ち、食欲を抑え、満腹感を高める効果があります。週1回の皮下注射で体重を減らすことができ、臨床試験では平均15%の減量効果も報告されています。
同成分のリベルサスやオゼンピックという薬は2型糖尿病の適応があり、保険適応で糖尿病患者の治療に用いられています。
しかし──この薬はあくまで、日本の保険診療では、BMIが27以上で高血圧、糖尿病、脂質異常症などの肥満関連疾患を合併している、またはBMIが35以上の患者に対してのみ、厳格な医師の管理下で使われるものです。
決して「痩せたいから打つ」薬ではありません。
自由診療で広がる“誤用”の実態
にもかかわらず、現実には美容クリニックが「痩せる注射」として販売し、SNSではインフルエンサーが「簡単に痩せた」と宣伝しています。その裏で、医学的根拠も倫理観も置き去りにされたビジネスが進んでいます。
しかもこの流行が、本当に薬を必要とする肥満症患者や糖尿病患者のもとへ薬が届かない原因になっている。製薬会社が供給制限をかけるほど、医療現場は混乱しています。
この現状は、医療資源の不適切な配分であり、私たち医療従事者の倫理が問われる事態です。
命を削る“副作用”のリスクと代償
「打つだけで痩せる」という甘い言葉の裏には、重い代償が潜んでいます。
- 強い消化器症状:吐き気・嘔吐・便秘など
- 重篤なリスク:膵炎や胆石症
- 急激な体重減少による二次的な問題:月経異常、脱毛、栄養不良
- 最大の落とし穴:自由診療での適応外使用の場合、「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となるため、万が一の健康被害は全額自己責任となります。
薬は体に「何かを与える」のではなく、「救いの手と同時に、何かを奪うリスク」も伴うのです。
医療が“商売”に変わる瞬間
正直に言います。この薬を「金もうけの道具」にしている医者たちを見ると、怒りを通り越して悲しくなります。そして、“楽して痩せられるなら何でもいい”と信じてしまう庶民にも、胸が痛みます。
世界には、今日食べる物すらない人々がいて、飢餓で命を落とす子どもたちがいる。一方で、私たちは食べ過ぎを薬で抑える──この不均衡な現実を、どう受け止めればいいのでしょうか。
薬に頼る前に、立ち止まってほしい
ウゴービは、あなたの心の空腹を満たす薬ではありません。
食べすぎ、ストレス、自己嫌悪──その根っこにある「生き方」こそが治療の対象です。
薬剤師としての私の願いは、「薬を使わずに済む人を一人でも増やすこと」です。
あなたが薬を必要としない体を手に入れるために、まずすべきこと:
- 食事記録と内省:何を食べたかではなく、「なぜ」それを食べたのか、食べる時の感情を記録してください。
- 専門家への相談:薬局の薬剤師や管理栄養士に、「薬を使わずに健康になりたい」と相談してください。
- 睡眠とストレス管理:食欲の乱れは、睡眠不足やストレスから来る場合がほとんどです。まずここを整えましょう。
食事を整え、体を動かし、心をいたわる。それでもなお医師が「命に関わる」と判断した時に、初めて薬は力を発揮します。 薬は最後の手段です。
ウゴービを使わざるを得ない患者と言うのは、持病により運動が制限されている人や別の疾患で飲んでいる薬の副作用で病的に肥満になっているなどかなり限られた人です。
特段理由がない肥満の方はまず、日常生活の見直しを徹底することが何よりも重要です。
自由診療で高いお金を払って副作用のリスクを負うのは正直馬鹿らしいです。
まとめ:痩せるためではなく、生きるために

美しさは数字では測れません。
本当の健康は、体重計の上ではなく、あなたの心と日常の中にあります。
どうかウゴービという薬を「救い」ではなく「警鐘」として受け止めてください。そして、薬に頼る前に、自分の体と心にもう一度向き合ってほしいのです。
ダイエット目的の処方によって薬が不足し、受けるべき人が治療を受けられないという事態は絶対にあってはならないと思いますし、薬剤師もそういった事態を招かないよう業務に取り組んでいくべきだと思います。
以上、最後までお読みいただきありがとうございます。
健康的に痩せる食事術については↓で解説していますので、ぜひご覧ください!

