「油=太る・体に悪い」という誤解が、私たちの食生活を貧しくしているかもしれません。
実際、脂質は細胞膜・ホルモン・エネルギー代謝を支える生命維持に欠かせない栄養素です。
健康オタクの薬剤師として断言します。
「良質な油を適量とること」は、サプリよりも確実に“健康寿命”を延ばす行動のひとつです。
目次
1. 油は本当に悪者なのか?──“コレステロールゼロ”商品の真実
「コレステロールゼロ」や「ヘルシーオイル」という表記は、実はマーケティング上の演出です。
そもそも植物油にはもともとコレステロールがほとんど含まれていません。
✅「コレステロール0」=本来含まれない成分を“あえて強調”しているだけ。
コレステロールは、細胞膜の主要構成成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料にもなります。
実際、体内のコレステロールの約80%は肝臓で合成され、食事由来はわずか20%程度です。
(日本動脈硬化学会ガイドライン2022)
したがって、食事制限だけで大きく変わるものではなく、生活習慣全体の改善が鍵となります。
2. 脂肪酸の基礎知識──飽和・不飽和の違いを理解する
脂質は「脂肪酸」という分子で構成されます。
炭素鎖の中に二重結合がないものが飽和脂肪酸、あるものが不飽和脂肪酸です。
| 分類 | 主な食品 | 特徴 | 健康への影響 |
|---|---|---|---|
| 飽和脂肪酸 | バター・ラード・牛脂 | 常温で固体・酸化しにくい | 摂りすぎでLDL上昇 |
| 一価不飽和脂肪酸 | オリーブ油・米油 | 酸化に強く、HDL増加 | 心血管疾患予防 |
| 多価不飽和脂肪酸 | 青魚・亜麻仁油 | 炎症を抑制・血液サラサラ | 必須脂肪酸・熱に弱い |
(参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2025」)
動物性 vs 植物性 vs 魚油──何がどう違う?
- 動物性油脂(ラード・牛脂・バター)
→ 飽和脂肪酸が主成分で、摂りすぎると動脈硬化リスク上昇。 - 植物油脂(オリーブ・米油・亜麻仁油)
→ 不飽和脂肪酸を多く含み、血管・脳・肌を守る。 - 魚油(DHA/EPA)
→ 強力な抗炎症・抗血栓作用。中性脂肪を下げる効果も確認。
(Yokoyama M. et al., Lancet, 2007;369:1090–1098)
4. 血中コレステロールと動脈硬化の関係
LDL(悪玉)コレステロールが高いと、血管内皮に侵入して酸化し、**動脈硬化斑(プラーク)**を形成します。
これが進行すると、心筋梗塞や脳梗塞の原因になります。

一方、HDL(善玉)は血管から余分な脂質を回収し、**“掃除役”**として働きます。
したがって、「LDLを下げ、HDLを保つ」ことが理想的な脂質バランスです。
🧠 補足:高脂血症治療薬(スタチン系・フィブラート系)はこのバランスを是正する目的で使われます。
5. 健康オイルの科学的評価
MCTオイル
中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)で構成され、吸収が早くエネルギー化しやすい。
糖質制限と組み合わせると脂肪燃焼促進。
(Marten B. et al., J Nutr, 2006;136:1333–1338)
ただし加熱調理には不向きで、コストも高い。
米油
米ぬか由来で、γ-オリザノールやビタミンEが豊富。
これらは抗酸化作用・脂質代謝改善作用を持ちます。
(Hori M. et al., J Nutr Sci Vitaminol, 2015;61:123–129)
安価で使いやすく、日常の“健康投資油”として最適
亜麻仁油(アマニ油)
α-リノレン酸(オメガ3系脂肪酸)を多く含み、体内でEPAに変換されます。
(Pan A. et al., Am J Clin Nutr, 2012;96:1262–1273)
熱に弱いのでサラダやスープの仕上げに。
6. 薬剤師が選ぶ「3本の健康オイル」
| 用途 | 油 | 理由 |
|---|---|---|
| 炒め・揚げ物 | 米油 | 酸化に強く、香り控えめでビタミンE豊富 |
| サラダ・仕上げ | オリーブオイル(エキストラバージン) | HDL増加・抗酸化作用 |
| 高コスパ魚油源 | 鮭ハラス | DHA/EPA・アスタキサンチン・低価格 |
💡 鮭のオレンジ色はアスタキサンチンによるもので、抗酸化力はビタミンEの約1,000倍ともいわれます。
(Nishida Y. et al., J Clin Biochem Nutr, 2020;66:91–102)
7. 魚油(DHA/EPA)の効果とコスパの良い摂り方
魚油は炎症を抑制し、血液をサラサラにします。
特にDHA・EPAには、以下のような効果が報告されています。
- 中性脂肪低下
- 血管内皮機能改善
- 認知機能の維持
(Calder PC, Nutrients, 2020;12:2334)
おすすめ摂取法:
- 鮭ハラス・サバ缶・イワシ缶を週2〜3回
- 補助的にDHA/EPAサプリを併用(1日500〜1000mg目安)
8. 摂取量の目安と“摂りすぎリスク”
脂質は1gあたり9kcal。
成人では、総摂取カロリーの20〜30%を脂質からとるのが理想。
(日本人の食事摂取基準2025)
ただし、摂りすぎると
- 肥満
- 皮脂増加(ニキビ・肌荒れ)
- 酸化脂質による老化促進
などのリスクが増加します。
適量の目安:
- オリーブオイル小さじ2杯(10g)
- 魚100g(DHA/EPA 1〜2g)
- ナッツ20〜30g
心臓や脳の疾患で抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる方、脂質異常症で内服薬を処方されている方は必ず主治医・薬剤師へご相談ください。
魚油(DHA/EPA)には血液をサラサラにする働きがあり、大量に摂取すると手術時の出血を助長させる恐れがあります。
全身麻酔を伴う手術を予定されている方も必ず医師へ確認してください。
9. まとめ──油は「悪」ではなく「知識の差」である
- 「コレステロールゼロ」に惑わされない
- 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸を選ぶ
- 米油・オリーブ油・魚油の“トリオ”が理想
- 摂りすぎず、酸化させない調理を意識する
脂質は体を作る素材であり、老化・炎症・ホルモンに直結する要素です。
薬剤師として断言します。
「油を制する者は、血管と肌を制する。」
明日からは、あなたの台所のオイルボトルが“健康投資ツール”になります。
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