「最近、水を意識して飲んでいますか?」
その一口が、あなたの“健康寿命”を左右するかもしれません。
人間の体の約60%は水でできています。血液として栄養や酸素を運び、老廃物を排泄し、細胞を守る——。
しかし、その「当たり前すぎる存在」である水を、私たちはしばしば軽視しています。
本記事では、現役薬剤師の視点から
水を飲まないと体に何が起こるのか、そして「正しい飲み方」の科学を解説します。
目次
水は「生命の60%」──なぜ人間の体に欠かせないのか
私たちの体は、細胞・血液・臓器のすべてが水に支えられています。
その役割は非常に多岐にわたり、主なものだけでも以下の通りです。
- 細胞の機能維持(化学反応・代謝・酵素活性の場)
- 血液として酸素や栄養を運搬
- 老廃物を尿・汗・便として排出
- 体温の調整
- 唾液・涙液などの体液の形成
🔍 出典:厚生労働省「健康のための水分摂取の目安」
水は単なる“液体”ではなく、命を維持する化学反応の媒体。
脱水状態になると、全身の代謝が低下し、血流が悪化して腎臓に深刻なダメージを与えます。
「水を飲めば健康になる」は本当?──科学的根拠と注意点
実は「水を飲むと病気が治る」「美容にいい」といった説には、明確な科学的根拠は乏しいのが現実です。
その理由として、水を全く飲まない人が存在しないため、比較試験が困難だからです。
ただし、腎臓病や尿路結石に関しては複数のエビデンスがあります。
- 尿路結石再発予防:飲水量を増やすことで再発率が約50%低下
(Curhan GC et al. N Engl J Med. 1993;328:833–838.) - 慢性腎臓病(CKD):十分な水分摂取が糸球体への血流を保ち、進行リスクを下げる可能性
(日本腎臓学会「CKD診療ガイド2023」)
つまり「科学的に証明されていない=意味がない」ではなく、生命維持に不可欠な生理学的必然なのです。
水を飲むことで得られる3つの実感メリット
① 便秘を防ぐ
腸内の水分量が減ると便が硬化し、蠕動運動で押し出しにくくなります。
十分な飲水は腸内環境を整え、自然な排便を促します。
(Lindberg G et al. Scand J Gastroenterol. 1997;32:1089–1095.)
② 食べ過ぎを防ぐ
食前にコップ1~2杯の水を飲むことで胃の容量が一時的に満たされ、満腹中枢が早く刺激されます。
ダイエット中の方にもおすすめです。早く満腹気分を感じられますよ。
③ 肌の潤いを保つ
皮膚の水分量は、体内の総水分バランスに大きく左右されます。
「外側の保湿+内側からの水補給」で、ターンオーバーを正常化できます。
日本人の平均水分摂取量と理想量を比較してみよう
厚生労働省の調査(30〜76歳男女・242人)によると、
日本人の1日あたり水分摂取量は以下の通りです。
- 男性:約2,400g(うち飲料由来:約1,200mL)
- 女性:約2,100g(うち飲料由来:約1,050mL)

欧米では「食事からの水分」が20〜30%に対し、日本人は主食の**ご飯(炊飯)**から約50%を摂取。
つまり、日本人は“食事で水を取っている民族”なのです。
理想的な飲水量は活動量にもよりますが、
1.5〜2L/日を目安にするのが妥当と考えられています。
「水を飲めることは幸せ」──腎臓病・透析患者の現実から学ぶ
薬剤師として透析患者と日々接していると、「水が飲めない苦しさ」に直面しました。
腎臓の働きが弱ると尿が出なくなり、体に水が溜まります。
余分な水を抜くために行うのが血液透析。
1回の治療で除水できる量には限界があり、過剰に水を抜けば脱水・血圧低下の危険が。
逆に溜め込みすぎると、肺に水が溜まる「肺水腫」で命を落とすこともあります。
透析患者はしばしば「1日800mLまで(人によって異なる)」などと水分制限されます。
カップ4杯ほど──これがどれほど辛いことか、想像できますか?
健康な人が“好きなときに水を飲める”というのは、実は何よりの幸せなのです。
水を飲む習慣を作る方法
水を飲む量を増やす最も簡単な方法は、「目に見える管理」です。
💧 ブリタなどのポット型浄水器を活用
家庭用のポット型浄水器(例:ブリタ)は、
冷蔵庫に入るスリムサイズから大容量まで多様。
2Lの浄水が約11円で作れるため、ペットボトルよりも圧倒的に経済的です。

💡 習慣化のコツ
- 就寝前に満タンにし、翌日中に空にする
- 家族分の目安を決め、飲みきりを“ゲーム化”
- デスクの定位置に置くことで「無意識飲み」を誘発
飲んではいけない「水分」3選
① エナジードリンク
カフェインは中枢神経刺激+利尿作用を持ち、飲むほど脱水を悪化させます。
厚労省によれば、健康な成人で1日400mg以下が推奨上限。
モンスター1本で約142mg、コーヒー・紅茶と併用すると簡単に超過します。
② 清涼飲料水
500mLのポカリスエットには糖質31g(角砂糖約9個分)。
過剰摂取により血糖スパイクを起こし、糖尿病の原因に。
特に「ペットボトル症候群(清涼飲料水ケトーシス)」は若年層でも報告があります。
私が病院で勤務していた時も夏になると何例か見ましたね
🔍 出典:日本糖尿病学会公式声明(清涼飲料水ケトーシス症例報告)
👉関連記事:夏は特に注意!ペットボトル症候群の恐ろしさ(熱中症対策と正しい水分補給)
③ アルコール
アルコールは利尿作用+代謝時の水消費によって脱水を助長。
肝臓でエタノールを分解する際に水を大量に使うため、
「飲んでいるのに喉が渇く」のはそのせいです。
👉関連記事:そのお酒一杯が未来の健康を奪う!酒で失うお金と健康
💬 薬剤師コメント:
「“水分補給のつもりでお酒”は最悪の選択。夜の飲酒後はコップ1杯の水でバランスを整えましょう。」
まとめ:水を意識するだけで、体は確実に変わる
水は薬ではありませんが、**あらゆる治療の前提となる“土台”**です。
私たちの体は、十分な水分があってこそ薬も代謝され、細胞も正常に働きます。
今、自由に水を飲めるあなたは、それだけで恵まれています。
毎日の「一杯の水」が、未来の健康を守る最大の自己投資です。
⚠️ なお、腎臓・心不全などの持病がある方は、飲水制限が必要な場合もあります。
必ず主治医・薬剤師に相談してください。
✅ 参考文献
- 厚生労働省「健康のための水分摂取の目安」
- 日本腎臓学会『CKD診療ガイド2023』
- Curhan GC et al. N Engl J Med. 1993;328:833–838.
- Lindberg G et al. Scand J Gastroenterol. 1997;32:1089–1095.
- 日本糖尿病学会公式声明:清涼飲料水ケトーシスに関する報告

