薬学部

本当に院内にいる?意外と知られていない病院薬剤師のリアルな日常

今回は、薬剤師の中でもマイナーである病院薬剤師のとある1日について私の普段の日常を踏まえて解説していきます。病院であまり存在感のない私たちがどのような1日を送っているのかを知っていただけたら幸いです。




前提情報

私の勤務している職場における勤務状況となりますので、すべての病院薬剤師に当てはまる内容ではないということをあらかじめご了承ください。

勤務先の情報(特定されない範囲で)

  • 都内の大学病院
  • 幅広い診療科が存在
  • 薬剤師:30数名在籍
  • 病棟数:13
  • 私の担当科:腎臓内科、腎臓外科、移植外科

病院薬剤師の業務

  • ・入院患者の内服調剤
  • 外来患者の内服調剤
  • 入院患者の注射調剤・混注(ミキシング)
  • DI業務(医薬品情報管理業務)
  • 麻薬・毒薬・劇薬・向精神薬管理業務
  • ワクチンなどの特殊薬品を含む医薬品管理業務
  • 生物由来製品管理業務
  • 病棟薬剤業務(入院患者の持参薬管理、医師・看護師とのカンファレンス、患者への内服指導、副作用モニタリング…etc

そもそも調剤とは何ぞやという声が聞こえてきそうです。

調剤とは文字通り薬剤を調製することです。

調製という言葉がやや曖昧ですが、既製品を必要数用意して揃えること(計数)に加え、粉薬を計ったり、混ぜたり、水剤を計ったり、軟膏を混ぜたり、院内製剤といって世に出回っていない医薬品を作ったりすること全般を指します。

よくネットとかでエゴサすると「薬剤師って処方箋通りに棚から薬取ってきて詰めるだけの超簡単なお仕事」「俺でもできるわ」「レジ係オツ」とかぼろくそ書かれていますが、目に見えていることだけが仕事ではありませんので、あまりそういうことは言わない方が賢明でしょう。

勘違いしている人が多いですが、薬剤師の業務の本質は薬を用意することではありません。

確かに、処方箋通りに薬を揃えるだけならだれでもできますし、なんならロボットでもできるでしょう。

大切なのは医師の処方意図を読み取り当該患者に対して妥当な処方かを判断すること、医薬品の適正使用に準じているかを判断することにあります。

薬剤師は医師の処方に疑義(疑問)が生じた場合、それを確認してから調剤しなければならないと法律で定められています。

ですが、知識が無ければそもそも疑問なんて生じないですよね?

この疾患、この病態、この腎機能、肝機能、年齢、体重、性別の人に本当にこの薬を使ってよいのか?先生は何か勘違いをしている?先生の処方のクセ?エビデンスのあるガイドラインなどにこんな使い方の記載はあったか?そもそも自分が知らないだけで最新の使い方として確立された治療なのか?など通常の使い方から逸脱していた場合は様々な疑問が生じます。

まあこんな疑問が生じる処方ばかりでは仕事も回りませんから、基本は添付文書と呼ばれる公的文書に記載されている使用方法に則って医師も処方してきます。

その上で、病態を鑑みて増量や減量、他剤との相性が悪いから別の同効薬への変更提案などを行っています。

医師の処方意図をくみ取り、妥当であれば規格と数を確認し薬袋に入れて調剤完了となります。

私の病院にはいないですが、場所によっては調剤補助員(SPD)と呼ばれるスタッフが常駐している施設があります。

その人たちは医療従事者ではないので、処方薬が何の薬なのかは全くわかりませんが、一旦記載通りに棚から薬を集めてくれて薬剤師に渡します。

そのあと薬剤師が処方内容、カルテ確認などの監査を行い、調剤を完了する流れです。

これは、薬剤師の真の業務がピッキングではないことを意味します。

ピッキングは正直誰でもできることです。○○錠5mgという薬を何錠取ってトレーに入れるなんていうのは文字が読めて薬の場所が分かればできますからね。

ですが、取っている薬がどんな薬なのかを知らなければ、その薬がやばい薬(ミスをすることで重大な事故につながりかねない薬)なのか、最悪ミスっても有害事象が起こることがないものなのかという判断すらできません。

特定の業種の人を下に見ている意図は全くありませんが、医薬品の卸さんも大量の薬を毎日納品してくれていますが、その実どんな薬を納品しているのかは全く分かっていません。

それもそのはず、彼らはその名称の薬(商品)を間違いなく納品することが業務だからです。

商品がどんなものなのかを知る必要がなく、彼らにとって重要なのは商品の価格や使用期限、在庫数などですのでそもそも意識の外にあります。

意外かもしれませんが看護師さんも薬の知識はほとんどありません。

これも業務の仕組み上仕方がないことですので全くそれが悪いとは思いませんし、業種が違うのでそれを求めるのもお門違いです。

看護師さんは看護のプロですので、データをみて薬を変えようとか追加しようとかの治療(医学・薬学)に関しては別分野です。逆に医師・薬剤師は看護学を学んでませんので患者のケアについての知識は疎いです。

医師、看護師、薬剤師の役割(病院)

【医師】

医師は治療全般の責任者であり、ほかのスタッフがどのように動けばいいのかを決める役割があります。

私は患者一人をあるプロジェクトと考えており、医師はプロジェクトを成功させるためのリーダーだと思っています。

患者の状態を正確に把握し問題を抽出、どのように対応するか大まかな方針を決め看護師(実働部隊)に指示を出す。

看護師から多くのフィードバック(報告)を受けてさらに治療内容を改良し、最終的に患者を治癒することでプロジェクトを達成する。

これを親友の医師に行ってみたところ「言いえて妙だ」と言われました。

会社で例えるとチームリーダーが医師、実働部隊が看護師、中間管理が薬剤師といったところでしょうか。

【看護師】

看護師はプロジェクトの実働部隊です。

医師からの指示を受けたのちにそれを実行します。

患者からの要望や訴えを記録し、問題を抽出して医師に報告。問題解決について看護的な観点から助言をすることもあります。

問題提起は最も患者の身近にいる看護師から発せられることが多いです。

「下痢がひどい」「痛がっている」「吐いている」「下血がある」など実際に目にした看護師しかわからない情報をカルテに記録し、医師に報告する重要な役割を担っています。問題の一部を薬剤師に相談することも往々にしてあります。

「この薬を飲んでから便秘になっているけどそんなことあるんですか?」とか「先生がこんなオーダーしてきたけどこの使い方であってるんですか?」とか普段と違うこととかに疑問を抱き薬剤師に聞いてくることもあります。実はそれは非常に重要な情報です。

薬の作用機序(メカニズム)的に予測できる副作用というのも数多く存在し、その薬を止めたり変更したりすることで改善するケースも非常に多いです。

ですが、副作用と思しき情報を医師に報告しても、医師の頭では「何か別の病態が発生したか?」「画像検査を追加して原因を探ろう」「その症状を緩和する薬を上乗せしよう」という発想になりがちです。

それは至極全うな思考であり何も間違ってはいません。が、薬剤による影響を考えることも副作用などの対応には必要です。

看護師からそのような情報をもらったら、薬剤師から医師へ「○○の影響でこの副作用が出ている可能性がありますので同系統の××に変更するのはどうでしょう?」と提案できるわけです。

このように、最も身近で患者の状態を観察している看護師は実働部隊でありたくさんの情報収集をしてくれています。

【薬剤師】

看護師のところで書いたことがほぼすべてです。

薬剤師は中間管理職なので、医師、看護師のつなぎ役になっています。「看護師からこの薬ってなんでこの人に使われているんですか?」と聞かれたりもします。

先生には聞きづらくても薬剤師であれば比較的気軽に聞けるのでしょう。

看護師的には今していることが医学的に正しいのかの判断が難しい場面がありますので、薬剤師的に見て妥当であれば看護師にもそれを伝えたりします。

ベテランの看護師だと知識や経験も豊富なので判断力がえげつない人もいますが(笑)。

薬剤師は医師がプロジェクト遂行のために使用する道具(薬)がそもそも正しいのか、正しい使い方なのか、その使用量などをチェックし、問題があれば確認して修正をする立ち位置です。まあ地味ですよね。

なんせ医師が全くミスをしなければこの仕事はいらないわけですから。でも、ミスをしない人間なんてこの世には一人もいません。

勘違いをしている人が多いですが、医師が出す薬が間違っていることは普通にあります

これは仕方のないことです。彼らは1日にとんでもない数の情報処理と意思決定を行っています。

それを1つもミスせずにこなせという方が無理なんです。

頭がいいからミスしないなんてあるわけないじゃないですか。誰でもミスをします。それを防ぐための仕組み上薬剤師のチェックが入っているわけです。

病院薬剤師業務を列挙しましたが、一つ一つ解説していると非常に長くなってしまいますので割愛させていただきますが、薬局薬剤師とは異なる部分が多いというのはお分かりいただけると思います。

それぞれ担当がいる業務もあれば、全員が共通してやる業務もあります。

休日当番や当直の日は一人でこなさなければならないので、業務全般の知識を身に着けておく必要があります。




私の1日の業務(一例)

私の病院の勤務形態は主に日勤、早出、当直、日直、遅出、半日勤です。それぞれの時間区分は以下に示します。

  • 【日勤】 9:00~17:00(基本)
  • 【早出】 8:00~16:00
  • 【当直】 17:00~次の日の9:00 (21時から1人体制)
  • 【日直】 休日の9:00~17:00(1人体制)
  • 【遅出】 13:00~21:00(17時~2人体制)
  • 【半日勤】9:00~13:00 (第1、3、5土曜、休日)

日勤

ほとんどがこの勤務です。私は朝カンファレンスなどに週2回出ているので、その日は早出になりますが、カンファの日以外は日勤です。

早出(1時間残業パターン) 始業8時ー退勤17時

一日の大半は調剤と病棟業務ということが分かりますね。

病棟業務とは主に入院している(してくる)患者の薬剤管理業務です。

私の病院では、入院してきた患者が飲んでいる薬をまず薬剤師が確認します。

どういった疾患で、どんな治療を受けるために入院してきたのか。

現在どんな薬を飲んでいるのか。これから開始する治療との相性は問題ないか。などを確認し、電子カルテ内に取り込みます。

その情報を医師が確認し、中止する薬剤の指示などを看護師に出す流れです。

薬剤師がチェックする時点でこの薬は中止になるから先生が中止指示出していなかったら確認してもらうように看護師に申し送ることもあります。

例えば抗凝固薬などが代表的です。抗凝固薬とは血液が固まりにくくすることで血栓の形成を阻害し、あらゆる塞栓症(代表:脳梗塞、心筋梗塞など)を予防する薬物です。手術の前には術中の出血防止のために中止が必要な場合が多く、薬毎に何日前から休薬するかが決められているため、その基準を満たして正しく休薬しているかを確認する必要があります。

本人と面談し、きちんと休薬期間が守られていることを確認し、その他、内服中の薬の副作用モニタリング、アレルギーの既往、市販薬・サプリメントなど常用しているかなどを確認することも重要な病棟薬剤師業務です。

当直

17時始業ー翌日9時退勤

私の病院の当直は上記の通り、17時から業務を開始し、翌朝の9時に勤務終了となる勤務形態です。看護師の夜勤とは異なり、一応就寝時間があります(一応)。

主な業務は薬剤部の中央業務(救急外来調剤など)です。

各部署、医師からの電話対応、かかりつけ患者からの外線、院外薬局からの外線などもあります。

調剤、薬品の払い出しなどと電話対応を行うのが主たる業務です。

21時までは遅出勤務者と2人体制ですが、21時から朝8時までは1人体制となります。その間に来た電話の対応はすべて自分の力で何とかしなければなりません。

緊急事態というのはそうそう起こらないのですが、結構夜に起こりがちです。

患者の急変があれば真夜中だろうと薬の請求が病棟からくるので、眠い目をこすりながら薬を揃え、払い出します。3時とかに医師から専門的な質問とかくると結構しんどいです。寝てる状態から頭をフル回転させて回答しなければならないので。

逆に、なにも起こらなければずっと寝られることもあります。

運がいい日は4時間とかまとまって寝られるので、次の日にどこかに出かける元気がある場合もあります。

夜1度も起こされないことはめったになく、概ね3~6回程度は起きて仕事をすることになります。うとうとし始めた時に電話が来るととんでもないめまいに襲われますがしかたありませんね。当直手当が少しもらえるのでそれで勘弁してやるかって感じです。

残業時間、年間休日

残業は月により多少の差はありますが、概ね10~20時間程度です。

休日出勤が月に1回程度あり、休日出勤はすべて残業時間カウントとなるので、通常の日勤後の残業だけで見ると10時間程度でしょうか。

休日出勤は残業カウントされる分代休は発生しません。お金あげるから多く働いてねというシステムです。

お金が欲しい人からしたらいいかもしれませんが、個人的には代休にして欲しいですね。

こうしてブログを書く時間も確保したいところですし、人間何もしていない時間というのが無いと心がおかしくなってしまいます。

休日は通常カレンダー通りですが、上述した休日出勤、ゴールデンウイーク、年末年始の中日(なかび)出勤などもあるためその限りではありません。

また当直の明けの日は休みですが、夜中と朝まで働いているので休日扱いではありません。

そう考えると結構年間休日は少ないかもしれませんね。管理職はカレンダー通りですが、私のような下っ端はまだまだ休日出勤に駆り出されます。

また、私の勤務先は第1、3、5土曜日の午前中(9:00-13:00)は通常出勤なので、2週間に1回は6連勤が確定しています。この週の日曜日に休日出勤だと13連勤くらいになって詰むので、その場合は平日にどこかで有給を使う感じですね。(それでもきついですが・・・)

  • 月平均休日:6.5日×12=78日
  • 付与される休日:夏休暇:5日 年末年始6日 有給20日
  • 国民の祝日15日(土日被ることもあるので減る可能性あり)
  • 休日出勤:GW最低1日 年末年始最低1日 月毎に1日×12

想定休日日数(78+5+6+20+15)=123日

休日出勤(1+1+12)=14日

現実休日日数=109日

・・・まあ及第点といったところでしょうか。ブラック企業ではないですね。(グレー?)

ちなみに今週は絶賛13連勤中です。




まとめ

いかがだったでしょうか?

病院ではあまり目立つポジションではありませんが、いろいろな形で治療に関わってるということを少しはお伝え出来たかと思います。

少々ハードな働き方ではありますが、医師、看護師を始め多くの職種の人たちと協力して医療に関わることは医療人としてのやりがいにも繋がるため、意外にも病院薬剤師は人気の就職先です。

そうなって欲しくはないですが、もしこの記事を読まれた方が何かの病気で入院されたときは、病院薬剤師が病棟にいるのかを聞いてみてください。看護師に薬の質問をした時も場合によっては病棟薬剤師がその説明に伺うので気になることは聞いてみるのもいいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

ABOUT ME
hiropon
初めまして。ヒロポンです。 私は大学病院で薬剤師をしています。 医療や健康についての情報発信をしたいと思いブログを始めました。 定期的に皆さんの健康に寄与する記事を更新しますので、よろしくお願いします。