「薬剤師の資格があれば一生安泰」——医療の道を選んだ理由の一つに、この言葉があった方は少なくないと思います。国家資格という強固な参入障壁、社会に必要不可欠な職業、安定した需要。確かにそれは事実でした。
しかしその前提が、静かに崩れ始めています。
病院経営が苦しくなっている。診療報酬の改定が物価上昇に追い付かない。賃上げムーブメントが医療従事者には届いていない。そして財務省は医療人材の定員削減を打ち出し、医療従事者過剰という議論が始まっています。
この記事では、薬剤師を中心とした医療従事者が今後の時代を生き抜くための考え方を、現場経験者の視点から率直に書きます。答えは「金融資本と人的資本の二本柱」です。
📋 この記事でわかること
- 薬剤師・医療従事者を取り巻く環境が変化している現実
- 病院経営破綻・診療報酬・賃上げ格差という構造問題
- 医療従事者過剰時代に供給過多が賃金に与える影響
- 金融資本と人的資本という二本柱の考え方
- 医療職が今から始めるべき自己投資の具体的な方向性
目次
医療従事者を取り巻く環境の変化
病院経営破綻の増加
医療機関の経営破綻は、近年急速に増加しています。帝国データバンクの調査によれば、2024年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の倒産は64件、休廃業・解散は722件となり、それぞれ過去最多を更新しました。前年比で倒産件数は56%増という急増ぶりです。
さらに深刻なのは経営内容です。2024年度の民間病院約900法人のうち、営業赤字となった病院の割合は61.0%で、前年度より6.2ポイント増加し、過去20年で最悪の水準となりました。6割以上の病院が赤字という現実は、「病院は安定した職場」というイメージを根底から覆すものです。
背景にあるのは、診療報酬のプラス改定を上回るコスト上昇が収益を圧迫し、増収減益が続いているという構造です。収入は増えないのに支出だけが膨らんでいく。この状況が続く限り、経営環境は改善しません。
かつて「病院は潰れない」というイメージがありました。しかしそれはもはや過去の話です。2026年には倒産・休廃業・解散件数が1000件に達する可能性が高まっているとの予測まで出ています。勤務先が突然経営危機に陥るリスクは、医療従事者にとってもゼロではなくなっています。
診療報酬の改定が物価上昇に追い付いていない
医療機関の収益の根幹である診療報酬は、2年ごとの改定で決まります。しかし近年の物価上昇・光熱費高騰・人件費増大のペースに、診療報酬の引き上げが追い付いていない状況が続いています。収入は増えないのにコストだけが上がるという構造の中で、医療機関の経営余力は削られています。
賃上げムーブメントが医療従事者に届いていない
日本全体で賃上げの機運が高まっています。しかしその恩恵が医療従事者に届いているかというと、現実は厳しい。診療報酬という公定価格に縛られた収益構造の中では、医療機関が自由に賃金を引き上げることには限界があります。物価が上がり、他産業の給与が上がる中で、医療従事者の実質賃金は相対的に目減りしていく可能性があります。
国民皆保険の崩壊リスク
少子高齢化が進む中で、社会保険制度の持続可能性への懸念が高まっています。財務省は高齢者医療費の3割負担原則化という方向性を示しており、国民皆保険という制度の前提そのものが問い直されつつあります。制度が大きく変われば、医療機関の収益構造・医療従事者の待遇にも影響が及びます。
📖高齢者医療費3割負担の原則化へ——現役世代が知るべき社会保障の限界
社会保険制度の現状と医療現場の本音を解説した記事
医療従事者過剰という新たなリスク
環境変化の中で、見落としてはならない問題があります。それが医療従事者の供給過多です。
2026年4月、財務省は医学部・歯学部・薬学部の定員大幅削減を明言しました。医師については2029〜2032年に需給が均衡する見込みで「過剰となることは既に確定的」とされており、薬剤師についても国家試験合格者数が定員の平均80.7%にとどまり「既に過剰」という判断です。
📖薬剤師を目指すのはハードモードなのか——なるまでの壁となってからの現実
財務省資料をもとに薬剤師の定員問題と職場環境を解説した記事
供給過多になれば、市場原理が働きます。需要より供給が多くなれば、価格——つまり賃金——は下がります。これは経済の原則であり、医療従事者だからといって例外にはなりません。
国家資格は利権によって守られている部分があるため、すぐに路頭に迷うということは考えにくい。しかし公務員でない限り、供給過多による賃金下押し圧力からは逃げられません。免許があるから安心ではなく、免許があっても待遇は下がり得るという現実を直視する必要があります。
🏆 整理すると
病院経営の悪化・診療報酬の停滞・賃上げの恩恵なし・過剰供給による賃金下押し——これらが重なることで、薬剤師・医療従事者の待遇は今後さらに厳しくなる可能性があります。「資格があれば安泰」という前提は、あまりにも危険です。
では私たちはどうすればいいのか——二本柱という答え
状況を悲観するだけでは何も変わりません。では医療従事者はこの時代をどう生き抜けばいいのか。私が考える答えは、金融資本と人的資本の二本柱です。
柱①:金融資本——いつでも動ける状態を作る
資産形成の本質は、お金を増やすことではありません。選択肢を持つことです。
いつリストラされても大丈夫な状態。待遇が改悪されたら他に移れる状態。その状態に到達するために、資産形成は有効な手段です。私自身、以前は本気でFIREを目指していた時期がありました。今は「いつでも会社を辞められる状態に到達してから、続けるか辞めるかを判断したい」という考え方に変わっています。
投資を知らずに貯金だけで過ごした数年間を後悔しています。早く始めるほど複利の効果は大きく、時間は最大の資産です。資産形成の具体的な考え方については以下の記事で解説しています。
📈薬剤師が資産形成を考えるべき理由——手取りの現実と投資の入口
資産形成の始め方・順番・具体的な考え方を解説した記事
柱②:人的資本——その他大勢から抜きんでる
供給過多の時代に横並びでいることのリスクは、賃金が平均値に引き寄せられることです。平均が下がれば、何もしなければそこに引っ張られていく。その中で抜きんでるには、何か光るものが必要です。
それは高度な専門知識でもいい。他分野の知見でもいい。医療とは全く異なる領域のスキルでもいい。大切なのは、医療職という枠の中だけで自分の価値を測らないことです。
私自身が実践している・おすすめできる自己投資の方向性を具体的に挙げます。
💡 筆者が実践している自己投資の例
- ExcelなどOfficeソフトの習得——業務での情報整理・集計・チェックに活用。元々手作業だったものを自動化し、大幅な効率化を実現しました。医療職の業務でも確実に役立ちます。
- マクロ・プログラミングスキル——CopilotなどAIを併用しながらマクロを作成することで、一からコードを書く必要はありません。AIが書いたコードのどこを修正すればいいかがわかるだけで十分実用的です。そのためには最低限の基礎学習は必要ですが、ハードルは以前より大幅に下がっています。
- ライティングスキル——クラウドワークスなどのプラットフォームで経験を積むことができます。このブログ自体も、ライティングの実践の場です。文章を書く力は、医療職のキャリアにも転職活動にも汎用的に活きます。
これらはすべて、医療の専門知識とは別の軸で自分の価値を高める手段です。ITスキルは特に、医療現場のDX化が進む中でこれからの医療従事者に求められるスキルになっていきます。一つでも着手しておくことで、他との差別化になります。
- ExcelなどOfficeソフトを業務レベルで使いこなせる
- マクロ・AIを活用した業務自動化ができる
- ライティングスキルで情報発信・副収入の可能性を開く
- 医療以外の分野の知見を持つ——投資・経営・ITなど
- 専門資格の深化——ただし取得が目的化しないよう注意
おわりに——医療従事者だからこそ早く気づくべき
「薬剤師の資格があれば一生安泰」という言葉は、もはや無条件には信じられない時代になりつつあります。病院経営の悪化・診療報酬の停滞・賃上げの恩恵なし・供給過多による賃金下押し——これらが重なる中で、医療従事者が職を失うリスクも、待遇が改悪されるリスクも、かつてより確実に高まっています。
しかしこの現実を知った上で動けるかどうかが、10年後の差になります。
金融資本で「いつでも動ける状態」を作る。人的資本で「その他大勢から抜きんでる」。この二本柱を早いうちから意識して行動することが、これからの時代を生き抜く医療従事者の生存戦略だと私は考えています。
資格があるから安心ではなく、資格があるからこそ早く気づいてほしい。その思いでこの記事を書きました。
※本記事は筆者の個人的な経験と見解をもとにしています。投資に関する記述は特定の金融商品を推奨するものではありません。

