本記事では舐められがちな高血圧について、対策、対処法、治療法について解説していきます。高血圧は多くの方が罹患している病気ですが、自覚症状が乏しく、健康診断で発覚しても放置する人が多いでしょう。ですが、放置してしまうことで様々な病気のリスクが上昇してしまいます。早期に発見し、撃退しましょう!
目次
高血圧症とは
一般的に言われる高血圧とは、血圧が高いという1つの症状です。
定義としては「診察室でのくり返しの測定で最高血圧が140mmHg以上、あるいは、最低血圧が90mmHg以上」で高血圧症の診断となります。
日本の高血圧患者数は約4300万人いるといわれています。実は3人に1人が高血圧ということになります。
こんなに多い理由として、食生活の欧米化、高齢化、運動不足などの生活習慣による影響が考えられています。
ただし、遺伝的に血圧が高い人や加齢による高血圧は生活習慣だけでは改善できない場合もあります。
食事による高血圧の発症メカニズムについてはこちらをご覧ください↓
その中でも、根本原因が不明な「本態性高血圧」と何かの疾患の影響で生じる「二次性高血圧」があります。本態性高血圧の原因は生活習慣の乱れなどが多いです。肥満、飲酒、ストレスなど生活習慣病のリスクと言われるものが該当します。
二次性では副腎と呼ばれる臓器から分泌されるホルモンの異常や、褐色細胞腫という腫瘍の影響で生じることが代表的です。
高血圧自体には症状がない場合がほとんどです
そのため、健康診断で高血圧と出たとしても病院を受診せず放置してしまう方が多くいます。ですが、高血圧を放置していると、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患や腎臓病のリスクが増加し、加齢や他の生活習慣病(肥満や糖尿病など)と合わさることでそのリスクはさらに高まります。
生活習慣の改善などでよくなるケースもありますが、それと併用して薬物治療も行っていくことが望ましいと考えられます。
高血圧のリスク
前項で軽く触れましたが、高血圧は血管に対して負荷がかかっている状態です。
そのため、血管があるところすべてに常に負荷がかかっているとも考えられます。
私たちの体の隅々まで血管が張り巡らされていますから、全身のどこで悪影響が出てもおかしくないということです。
その中でも致命的になるのが心臓関連と脳関連の病気です。
ご存じの通り、心臓と脳というのは、私たちの体の中で最も重要である臓器です。
そのため、太くて重要な血管が存在し、それが詰まったり破れたりすることで致死的な状態になりえます。
心臓の血管(主に冠動脈)が詰まると心筋梗塞ですし、脳の動脈が詰まると脳梗塞と医学上は呼ばれます。
心筋梗塞や脳梗塞がやばそうというのは何となくイメージできるかと思います。
心臓は体全身に血液を送り出すポンプとして働いていますので、その機能が破綻すると各臓器への血流が滞ってしまします。各臓器は細胞の集合体であり、細胞は酸素や栄養が無いと働くことはおろか生存することができません。
もちろん心臓本体もです。冠動脈は心臓に栄養を送るための血管であり、ここが閉塞することで、虚血といって血が足りない状態になります。そうなると、心臓の組織である心筋は壊死し元に戻らなくなってしまいます。
脳梗塞については、後遺症が極めてネックになります。血管が詰まり、梗塞した場合、その先の脳神経細胞は壊死してしまい、機能を維持できなくなります。そうすると、半身麻痺や言語障害といった生活する上で非常に苦労するであろう後遺症を伴う場合があります。
心筋梗塞や脳梗塞は発症した場合必ず入院しなければなりませんし、最悪死に至ります。死を回避できたとしても後遺症が残る場合もあり、その後の生活を送るうえで不自由を感じることが多くなるでしょう。
心臓、脳に続いて、致命的ではないものの、発症した場合に生活する上でかなりの制限を強いられてしまう病気である腎臓病です。
腎臓病という言葉はとても広義的で医学的にはあまり意味をなさないと思います。なぜなら、腎臓に関する疾患というのはかなりの種類があり、その発症要因、メカニズムが異なるため一括りにする意味がないからです。この言葉自体は、あまり病気に詳しくない一般の方向けに使われていると思いますが、腎臓病という大きなカテゴリーの中のどんな疾患なのかを理解することが重要です。
話が逸れましたが、腎臓病の中でも「腎硬化症」という病気が高血圧によって引き起こされる疾患です。
腎硬化症とはその名の通り、腎臓という組織が硬くなってしまうことで本来の機能を維持できずに腎不全に至る疾患です。その主たる要因は今回のテーマである高血圧であり、高血圧が長期間持続することによって腎臓の動脈硬化が発生し、機能不全に至ります。
腎臓の機能というのは本当に様々なものがあり、どれも極めて重要ですが、最も重要なのは尿を作って排泄することでしょう。
尿は老廃物を体外に排泄してくれるだけではなく、過剰な塩分や水分の排泄、体に必要な糖質やアミノ酸、カルシウムなどの再吸収をしています。こうすることで、体内の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロール、リンなど)のバランスを保ち、体が正常に機能するようにしています。
腎臓とはいわば超高性能の濾過器です。余分なものは出して、必要なものは回収してくれるというとんでもない仕事をしてくれています。これが機能しなくなるということはどうなるか想像がつきますよね?
腎臓が悪くなりすぎると末期腎不全といってほとんど尿が出ない状態になります。
そうなると、上記の働きができなくなることで、体内の電解質異常、老廃物の蓄積が生じます。また、水分を排泄できなくなりますので、体の中に水が溜まります。尿以外で水を排泄するのは汗や便、また不感蒸泄(一部皮膚などから水分が蒸発していること)くらいで、これらの水分排泄量は尿量と比較すると極めて少ないです。
通常、成人の1日の平均尿量は約1.5Lです。そして、水は1日2L程度摂取することが推奨されています。ですが、尿から出すことができる1.5Lが失われてしまうとその分体に溜まっていきます。
体に溜まった水は腹水や胸水、浮腫といって体の空きスペースの方に流れます。空きスペースといっても本来空けておく必要があるスペースになりますので、水が入ってきたら困ります。これが限界まで達すると溢水といって体という水の器がいっぱいになりすぎた状態になります。こうなると人間は死んでしまいます。
この状態を改善する治療が透析です。透析については別記事で詳しく書こうと思いますが、透析とは簡単に言うと血液を一度取り出して大きな濾過器に通し、きれいな状態にして体内に戻す治療のことです。こうすることで、疑似的に腎臓と同じようなことが可能となります。致死的ではないといったのは、この治療があるためです。
ですが、透析は決して楽ではありません。生きることはできますが、かなりの生活上の制限を伴いますし、週に3回はクリニックに通わなければなりません。
なので、一生クリニックからは離れられないと思った方が良いでしょう。
このように、高血圧を放置すると将来辛い生活を余儀なくされる可能性があります。
早期発見、早期治療が非常に重要です。
高血圧の対策
高血圧の怖さを少しはおわかりいただけましたか?
そんな怖い高血圧ですが、最もその発症リスクとなるのは生活習慣の乱れです。
有名な話かとは思いますが、食生活よる影響が最も大きいでしょう。
前項でも述べましたが、塩分の過剰摂取は日本人の由々しき問題です。
日本人の平均食塩摂取量は男性で11g/日、女性で9.3g/日です。
ちなみに高血圧予防のための食塩摂取目標量は6g/日未満です。
細かいことは言いません!塩分摂取量を減らしましょう!
一回、家の電子天秤で塩6gを量ってみてください。6gってこんなにあるの?って思いますよ。
そうなると、11gってどんだけ摂ってんだよ。そりゃ体に悪いわけだと気づくはずです。
減塩に最も有効なのは自炊をすることです。外食は塩分量が多いので、1食でも外食をしてしまうと一気にバランスが崩れます。自炊ならば、例えば6gを量っておいて、その中で料理を作ればいいですし、調整もしやすいですよね?
自炊は怠いわ~という方はせめて、減塩と書かれたものを選ぶようにしたり、食品の裏や側面の栄養成分表示を見て、おおよその塩分摂取量を意識してみてください。最近ではチェーン店のメニュー表にも小さく塩分量とかカロリーが書いてある場合がありますので、それで把握するのもいいかと思います。
次に運動習慣です。もう当たり前すぎでこれ以上言うことは無いんですが、運動しましょう!
ちなみに肥満も高血圧のリスクです。太っていていいことなんて一つもありません!太っているのに血圧が正常な方は体が頑張って無理して正常にしてくれているだけです。必ずいつかガタが来ます。痩せましょう。
続いて、まとめますが、ストレス、飲酒、過重労働、睡眠不足です。どれも不健康になりそうなワードばかりですよね?
ストレスを完全になくすことは不可能だとは思いますが、自分でストレスを発散する方法を模索したり、軽減する工夫をすることはできるはずです。
健康がなによりの資本です。自分の体をいたわることができない人が他人をいたわることなどできません。自分の健康あっての社会貢献です。
たまに、院内処方で先生の内服薬を調剤することがありますが、めちゃくちゃ生活習慣病の薬飲んでて、かなり肥満でこの人に生活習慣のダメ出しとかされたくないなと思うときがあります。(余談)
結局のところ、ストレスを軽減させることができれば、過剰な飲酒、喫煙、睡眠不足、暴飲暴食などの悪習慣も減らすことができると考えますので、まず撃退すべきなのはストレスかと思います。(ストレス対策については別記事で書こうと思います。)
前項でも述べましたが、上記対策を講じても血圧が下がらない人というのも一定数いるのは事実です。まず、単純に加齢により血圧は上がりやすくなります。
当然ですが、血管も年をとりますので柔軟性が低下することで血圧があがるのもうなずけます。
これはもう付き合っていくしかありません。なので、どうしても下がらない場合は薬に頼るというのも選択肢として大いにあると思います。事項では複数種類ある降圧薬について解説していきます。
高血圧の治療薬
ようやくここまできました。
まず、ここでいう高血圧とは、副腎、甲状腺などのホルモン異常による二次性高血圧ではないということをご承知おきください。それらの治療は別で、ホルモン療法が必要となりますので、前項で述べた「本態性高血圧症」の治療に用いられる薬剤の解説となります。(二次性に使われることもありますが)
日本で処方される降圧剤は本当に種類が多く、様々な使い分けがありますが、カテゴリー(作用機序)で分類すると以下のようなものがあげられます。
- ・カルシウムチャネル阻害薬(代表薬:アムロジピン)
- ・ACE阻害薬(代表薬:エナラプリル)
- ・ARB(代表薬:カンデサルタン)
- ・ARNI(代表薬:サクビトリルバルサルタン)
- ・アドレナリンα1受容体阻害薬(代表薬:ドキサゾシン)
- ・アドレナリンβ1受容体阻害薬(代表薬:ビソプロロール)
- ・利尿薬(代表薬:フロセミド)
どうでしょう。かなり私としてはかなり多いなという印象です。
これのほかにも、妊婦に使用できるメチルドパやヒドララジンなどマイナーなものもあげるときりがありません。
ですが、汎用されているものは随分と絞られてきますので、有名どころを処方する医師がほとんどだと思います。以下にそれぞれの簡単な特徴を示します。
【カルシウムチャネル阻害薬(別名:カルシウムブロッカー】
血管に存在するカルシウムチャネルという部分をブロックすることで血圧を下げるお薬です。効果は強力で降圧作用が得られやすいのが特徴です。錠剤、カプセル、徐放錠など様々な剤型があり、種類も豊富です。高血圧症治療薬として極めてメジャーな薬剤です。
(アムロジピン、ニフェジピン、シルニジピン、ベニジピン、アゼルニジピンなど)
【ARB(別名:アンギオテンシン受容体阻害薬)】
血管に存在するアンギオテンシン受容体という部分をブロックすることで血圧を下げるお薬です。効果はマイルドで副作用も軽いものが多いです。腎臓に対して保護的に働くため、腎臓が悪くなってきている患者に使用されますが、腎臓が悪くなりすぎると使えなくなってしまうという特徴があります。カルシウムブロッカーとセットになった合剤も販売されています。
(カンデサルタン、オルメサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、アジルサルタンなど)
【ACE阻害薬(別名アンギオテンシン変換酵素阻害薬)】
先に出てきたアンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)の手前で働くお薬です。ARBはアンギオテンシンという物質が受容体にくっつくのをブロックするのに対し、ACE阻害薬はアンギオテンシンができるために必要な酵素を阻害して、そのあとの反応を抑えるというものです。作用や特徴はARBと大きく変わりはありません。ARBと合わせてRAS阻害薬などと言われたりします。
(エナラプリル、カプトプリル、リシノプリル、イミダプリルなど)
【ARNI(アンギオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)】
なんだか似たようなワードが並ぶ中、また新しくネプリライシンというものが出てきました。アンギオテンシンについては先に出てきたARBのことで、この薬はさらにネプリライシンという物質を抑えることで心臓を保護したり、利尿を促したりする働きがあります。比較的新しいお薬で、心臓に病気がある方によく使用されます。
(サクビトリルバルサルタンのみ)
【アドレナリンα1受容体阻害薬】
血圧をあげる働きのあるアドレナリンの働きを抑えて血圧を下げるお薬です。血圧が高いのでこれを飲みましょうと単独で処方されることはあまりないお薬です。一般的にカルシウムブロッカーなどと併用して使用されます。
(ドキサゾシン、ウラピジル)
【アドレナリンβ阻害薬】
心臓の機能を亢進することで血圧をあげるアドレナリンβ受容体をブロックして血圧を下げるお薬です。喘息の既往がある方には使用できません。
(ビソプロロール、メトプロロール、カルベジロール(正確にはαβ阻害薬)など)
【利尿薬】
腎臓の尿細管に働きかけて利尿を促すお薬です。尿量が増えると体内の水分量が減りますので、結果的に血圧は下がります。脱水に注意が必要です。体のむくみを伴う高血圧などに用いられますが、血圧を下げるためのファーストチョイスにはならないですね。
(フロセミド、アゾセミド、トラセミド、スピロノラクトン、トリクロルメチアジドなど)
いかがでしょうか?
カタカナが多すぎて訳わからんって感じですよね?
ちなみに、例として挙げている薬剤名は一般名といって薬の本名になります。ジェネリックであればこの名前ですが、先発品だと商品名となるので、この中にないものももちろんあるでしょう。(例えばビソプロロールであれば商品名はメインテート®)
これだけたくさんの種類があれば自分に合うものが見つけられると思いませんか?降圧薬は副作用が少なく、薬価も安いため、薬に頼りつつ、生活習慣を改善していくのが最適解だと思います。
薬は正しく使うことでローリスクでハイリターンを狙えるものです。もちろん薬に頼り切りで生活習慣を改めなければ状況は悪くなる一方ですので、生活習慣の改善もマストです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
高血圧は日本人の生活習慣病リスク因子ナンバーワンです。
初期、中期でも自覚症状に乏しいのが本当に怖いところで、気づいたときには手遅れなんてことになりかねません。習慣の力は恐ろしいですが、いい習慣でもそれは同じこと。いい習慣を続けて健康を維持することが数10年後の自分に返ってきます。
普段から、自分の体は責任をもってメンテナンスをし、健康第一の生活を心がけましょう!